月夜
空を見上げると、黄金色に輝く月が静かに佇んでいる。
昼間は夏のように暑かったのに、今の風は風呂上りの体に気持ちがいい。
「夜風は体に毒だぞ」
部屋の中からかけられた声に、思わず肩が下がった。
「その毒風に和んでるんだ」
振り返ると、勝手知ったる他人の家のシャワーを無断拝借した友人が、缶ビールを2本持ってこちらにやってくる。
「おまえ‥‥たまには湯船につからないと、疲れが取れないぞ」
自分が風呂場から出て、まだ10分と経っていない。この友人は知り合ってから一度も湯船に入ったことがなく、雪が積もるほど寒い真冬でも、シャワーで済ませてしまうつわものなのだ。
そのつど湯船につかるように促すのだが、
「皮膚呼吸ができなくて苦しい」
と意味不明な理由を語り、反湯船を貫いている。
今回もその例にもれず、
「毎日毎晩風呂に入ってよく窒息死しないな。それが逆に不思議なんだけど」
「あほ。風呂入るたんびに窒息死してたら、日本人はあっという間に全滅するだろう」
「いやいや、おれが考えるに、日本人の半数は毎日風呂ってない。この忙しいご時勢に毎日風呂に入るのは、おまえと美容に気を使う女たちくらいだと思うな」
「‥‥男でも毎日風呂に入るやつは大勢いるはずだぞ」
むっつりと反論すると、にっと笑みを浮かべて缶ビールを差し出してくる。
「長風呂なのに短気だなぁ」
ひんやりとした缶ビールを受け取って、
「カラスめ」
とつぶやく。
「気持ちいい毒風にまん丸お月様。風流だなぁ」
「‥‥」
勢いよくビールを喉に流し込んで、半分ほどになった缶を掲げながら、相変わらず意味の分からないことを言う。
毎度のことながら、なにやらこちらも口元がほころんでくるではないか。
それをごまかす為に、慌てて月と同じ色の液体を体内に注ぎ入れた。
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