墓守
真っ青な空と輝く白い雲、その先には青や緑に色を変える澄んだ海が見渡せる。
右手には青々とした田んぼが狭い土地にへばりついていて、風に揺れて濃淡が美しい。後ろに視線を向けると、己の存在をここぞとばかりに主張している木々が集まり、濃く染まった緑の枝葉を目いっぱい広げて小山を作っていた。
その間を少し頼りなさ気に、数え切れないほどの赤とんぼが飛び交っている。
その背に懐かしい人の心を乗せて。
低い小山を削って作られた昔ながらの墓は、高齢化の影響を受けて、上り口にある寺の納骨堂に多くが移っていった。
子供の頃は狭い通路に人が溢れ、墓だというのに色とりどりの花が賑やかに石碑を飾り、夕方になると初盆を迎えた家の墓ではたくさんの提灯が風に揺れ、その下では大人たちが故人を偲んで酒を酌み交わす、楽しげな声があちこちから聞こえてきたものだ。
今では人気のない墓が増えて、飾られる花の数もまばらになっている。すでに家名が刻まれた部分を取り外しているものもあった。隅のほうには雑草が生えていたりもする。
遠く離れた街中で暮らす自分にとって、「墓場」は暗く湿っていて、昼間でも近づきたくないなんとも不気味な印象があったのだが、不思議とこにこの墓場は子供の頃からとても好きだった。
お盆以外でも花が絶えることなく墓前を飾っていたからなのかもしれない。海が見渡せる小山に作られていて、常に太陽と風が優しく見守ってくれていたからなのかもしれない。
手作りのでこぼこした階段とも呼べない道を登っている途中に、名前も知らない大きな木が一本生えている。なぜその木だけ切り倒さなかったのか、祖父母に聞いてもわからなかった。暑い夏の夕方、汗をかきながら階段を登っていると、赤く染まった夕日が木漏れ日の間からのぞき、家族の顔をまだらにするのがとても好きだった。
不思議なことに、記憶の中にある大木は今見てみると思ったほど大きくない。コンクリートで固められた坂道に根を伸ばしているからか、成長が遅いようだった。
さらに急な坂を登った先に自分の家の墓がある。
丘陵地の中でも一番上に作られたこの墓からの眺めは最高で、ひんやりとした風が汗を吹き飛ばしてくれる。
そっと墓前に腰を下ろす。
誰も省みることもなくなって、掃除もされていない墓石には落ち葉が何枚も乗っていた。
持ってきた赤い薔薇の花束を置く。
熱を持った墓石に薔薇が悲鳴を上げたようだ。
この花は明日の朝には枯れているだろう。数日もすれば、ドライフラワーのようにカラカラに乾ききってしまうはずだ。
この墓で静かに眠る、あの人の好きだったその姿に。
「‥‥ごめん」
そうつぶやいて、手を合わせる。
この場所が好きだと言ってくれた君に。
この場所で共に眠ることが出来ない悔しさを風に乗せて。
無数に飛び交う赤とんぼが、この想いを運んでくれることを願って。
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