小説・古代

2008年2月13日 (水)

18P部分

お久しぶりのブログですが、まずは「すみませんでした」と謝らせてください。

抜けていた18P部分を下記に載せましたので、お手数ですがご覧ください。

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近江朝を率いるのは、大友皇子だ。

その后(きさき)は十市なのである。

十市の屋敷を攻め、その夫を滅ぼそうとしている。

あれから高市は一度として十市の姿を見ていなかった。十市の立場も理解していたが、それでも本音を聞きたくて嫁ぐ前に何度か屋敷を訪ねたが、会うことは叶わなかった。

大友に嫁して子をもうけてからは、表舞台にまったく姿を現さなくなってしまった。

十市が何を思い、どのような決意のもとに行動したのか、確かめることも知ることもできないまま歳月が過ぎ、今こうして彼女の夫を討とうとしている。

大友が憎いわけではない。

恨みがあるわけではない。

ただ、お互いの立場のもとに行動しているだけなのだ。

愛馬の鬣(たてがみ)を撫でると、安心したのか目を細めた。

「高市様!」

大声で名を呼ばれ視線を向けると、伝令の者が息を切らせて駆け込んできた。

一気に周囲の緊張が高まる。

目の前で膝を折った伝令は、汗を滲ませながら声を張り上げた。

「大友皇子、自害!」

その報告に、歓声が上がった。

「我が軍、勝利!」

「勝利!」

沸き立つ周囲に、高市は戸惑った。

ねぎらいの言葉をかけて伝令を下がらせたが、次に何をすべきか頭が真っ白になって、何も浮かんでこなかった。

「高市様、勝ち鬨(どき)を!」

興奮気味の従者の顔を見て、改めて自分の立場を自覚した。

感傷に浸っている場合ではない。

一軍の将として、やるべきことをしなければならない。

唇を噛み締め、周囲を見渡してから手に持った剣を空に掲げて、声を上げた。

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数日間、戦の残務処理に追われた。

それだけに集中していなければ、余計なことを考えてしまいそうで、いつも以上にがむしゃらに働いた。

そんな日々を過ごしていた時に父に呼ばれて私室を訪れた高市は、その場に不釣合いな女性の姿を見て、首を捻った。

年の頃は二十代後半だろうか。意思の強そうな美貌の女性で、着ているものも上質だ。しかし、近江宮から逃げ出してきた女たちが持つ微かな怯えや卑屈さはまったく感じない。

いったいこの女性が誰なのか想像がつかなくて戸惑っている息子に、父はまず今回の働きをねぎらった後、座るよううながした。

とりあえず腰を下ろした高市に、父は言った。

「高市。額田だ」

「え!?」

これには心底、驚いた。

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以上が抜け落ちていた18P部分になります。

何度も校正をしたのですが、あとは印刷をするだけという状況に安堵してしまったのが一番の原因だとおもいます。

本当に申し訳ありませんでした。

次があるかわかりませんが、次回はこのような失態を犯さないよう十分注意を払うつもりです。

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2007年10月27日 (土)

落火・2

「そなたにはずいぶん寂しい思いをさせた。わたくしを許しておくれ」

久しぶりに会った伯母は、有間の両手をしっかりと握り締め、涙を浮かべてそう言った。

肉厚な伯母の手のひらは、床に横たわり痩せこけた父との立場の違いを無言で示しているようで、ひどく居心地が悪かった。

そっとあたりに視線を向けるが、有間をこの場所に連れてきた葛城の姿は見当たらない。

「軽があれほど弱っていようとは、思いもしなかった。わたくしがもう少ししっかりしていれば、このようなことにはならなかったのに‥‥」

己を悔やむ伯母の言葉に、有間の胸は冷えていく。

そう言いながら、実の弟を裏切ったのはだれだ。

あなたの息子が、父の喉元に鋭い刃を突き付けたのではないか。

どす黒い怒りの感情が口からほど走りそうになる。

唇をきつく噛み締め、それらを嚥下する。

「そなたはここに残るのか? ここはあまりにも寂しすぎる。軽とともに飛鳥に来てはどうじゃ。そうすれば軽の治療も十分にできるしの」

弟と甥を案じての言葉なのだろうが、あまりにも残酷だった。

この難波の宮がこれほど静かなのは、大王である父が反対したにもかかわらず、伯母の息子である葛城が多くの豪族や皇族を飛鳥に連れて行き、権力が誰にあるかを見せつけたからで、憔悴した父はひと気のない宮で息絶えようとしている。

伯母の言葉が身体の中に巣食っていた黒い念を目覚めさせ、今にも肌を突き破り飛び出そうとしている。

押さえる力と破ろうとする力が激しくぶつかり合い、眩暈がする。

吐き出す息さえ黒く澱んでいる気がする。

これ以上、伯母の言葉を聞くことはできなかった。

「‥‥伯母上、わたしより、父の側にいてあげてくださいませ。何度も伯母上の名を繰り返し呼んでおりましたので、喜ぶと思います」

失礼致します、深々と頭を下げて部屋を出た有間は、服がしわになるのもかまわず胸元を鷲掴みにして、走らない程度の勢いで庭に面した回廊に向かい、冷たい秋風を感じた途端、詰めていた息を吐き出した。

額に触れると、じっとりと汗をかいていた。

悪い人ではないのだ。心から自分の不甲斐なさを責めて、涙を浮かべていたのだ。

それは分かっている。

頭ではそう理解していても、心がついていかない。

伯母の言葉は毒となって有間の身体を侵したようで、胸元を掴んだ手は細かく震えていた。

「逃げ出してきたか」

どこかに隠れていたのだろう。近づいてきた葛城の薄い唇は楽しげに釣り上がっている。こうなることを予想していたようだ。

ちらりと先ほど有間と伯母がいた部屋の方角に視線を向けて、言った。

「我が母ながら、残酷なことを口にする。あれで本気で嘆いているのだから、面白いとは思わないか?」

この人は、自分の母親でさえ政治の道具と思っているのだろうか。

嘆き悲しむ母親の姿を見て、何も感じないのだろうか。

「‥‥あなたはっ!」

瞬間的に怒りが有間の口から滑り落ちる。

言葉に出した途端、己の怒声に驚いて、有間はハッと口を閉ざした

うつむいて黙り込むしか逃げ場がない。

庭に植えられた木々が風に吹かれて枝を揺らし、舞い落ちた葉がいくつも足元を転がっていく。

なぜこんな時に、采女の一人も通らないのだろう。いくら人気の少ない宮だとしても、大王の世話をする采女や舎人は幾人もいるのだ。

耳に入るのは風と落ち葉、そして己の心の臓の音だけ。

痛いほどに葛城の視線を感じる。

流れる沈黙がひどく肌を刺激していく。

「珍しいものを見た。おまえも怒りの感情を持っているのだな」

「‥‥え?」

ぽつりとつぶやかれた言葉に、意味が分からず有間は顔を上げた。

そこにあったのは、棘が抜けた葛城の顔。

葛城の冷たい美貌には、いつも近づく者を凍てつかせる棘が見えていた。

それがなかった。

「曖昧な笑顔を貼り付けてのらりくらりと過ごす、面白くない従兄弟だと思っていたが‥‥なるほどな」

腕組みをして、なにやら納得したように二・三度頷く。

眉をよせながら、有間は頭を下げた。

「‥‥口が過ぎたようです。申し訳ありませんでした」

「何を謝る? 面白いものを見せてくれたというのに」

「‥‥」

葛城が一歩近づく。

後ろに下がろうとする心に叱咤し、回廊の手すりを強く握り締めて、踏みとどまる。

「おれが怖いか?」

「そのようなことは‥‥」

慌てて首を振るが、その顎を捕らえられる。

上を向かせた顔を覗き込むようにして、葛城は冷徹な眼差しで有間の心を縫いとめていく。

呼吸が止まる。

「震えているぞ」

ささやきに笑みが混じっている。

そっと冷たい指で頬を撫でられて、思わず有間は目を閉じた。

指が離れて、それが意外なほど温かかったことに気付いた。

「おまえは、本当に面白い」

頬から離した腕で有間の肩を軽く押した葛城は、有間がよろけた間に踵を返し、落ち葉を踏み砕きながら回廊から姿を消した。

落ち葉が渦を巻きながら、足に絡み合う。

有間の心のように。

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2007年10月18日 (木)

小説・落火

周囲の木々は風が吹くたびに葉を落とし、冬に向けて忙しく準備に追われている。

山も色とりどりに葉を染めて、賑々しい雰囲気に包まれている。

足元をかさかさと音をたてて落ち葉が転がって行く。

それをさえぎる者は誰もおらず、どこまでも広い道を仲間たちと楽しげに駆け抜けて行った。

それらを見やって、有間はゆっくりと息を吐いた。

以前はこの通りもたくさんの人が行き来し、落ち葉の声など夜にならなければ耳に入ることはなかった。

まだ新しさがにじみ出ている巨大な宮は、この土地に馴染む前に朽ちていこうとしている。

このまま朽ち果てて、誰にかえりみられることもなく記憶から消えてしまうのだろうか。

ではいったいこの宮はなんだったのだろう。

多くの財と人を投じて作られたというのに、こんなにもあっけなく崩れてしまうとは思いもしなかった。

「供も連れずに無用心だな」

背後からかかった声に驚いて振り返る。

「‥‥葛城皇子さま」

思いもしなかった人物を前にして、身体が固まってしまった。

「このように人気のない場所でなにをしている? ふらふら一人で歩いていると、賊に襲われるぞ」

「‥‥」

人を寄せ付けない冷たい美貌に笑みを浮かべ、有間を見下ろしている。

この時ほど、人気のないこの通りを恨んだことはない。

葛城は足元に絡まる落ち葉をそっとすくい上げ、有間の肩にはらはらと落とす。

「歌でも作っていたか?」

肩から滑り落ちた落ち葉は、冷たい風にさらわれてあっという間に仲間のもとにたどり着いて、紛れ込んでしまった。

落ち葉のように、この場から立ち去りたい。

風が自分を砕いてくれないだろうか。

「この唇は作り物か?」

冷たい指で唇を触れられ、ハッと身を引いた。

葛城はにやりと笑う。

「ようやく顔を上げたな」

「‥‥あなたこそ、お一人で出歩くのは、無用心なのではないですか?」

無理矢理口をこじ開けて搾り出した有間に、葛城は軽く肩をすくめてみせた。

「このような場所に出る賊なぞ、斬り捨ててしまえばいい。斬られる前に逃げ出すだろうがな」

苛烈な言葉とはうらはらに、声は思いのほか柔らかかった。

どこを見ればいいのか分からなくなり、足元を動き回る落ち葉に視線を落とす。

握り締めた拳は、じっとりと汗で湿っている。

この人は、父を裏切った。

父の居であったこの宮を見捨て、多くの人を飛鳥に連れ去った。

后にも去られた父は、心労が重なり長い間床に臥していた。

葛城の行動で、父の命は燃え尽きようとしている。

それなのに。

「母上がそなたの顔が見たいと言い出してな。不幸の甥ごを哀れみたくなったのだろう」

吐き出される言葉は刃となって、有間の心を切り裂いていく。

「こんな所にいたのでは風邪をひいてしまうぞ」

「あ‥‥」

手首を掴まれ、固まった身体が突然動き出す。

葛城のほうが背が高いため、歩幅が違う。

何度か落ち葉に足をとられながら、葛城の後を付いてい行く。

掴まれた右手首が熱い。

吹き抜ける風は寒さをともなっているのに、不思議だった。

この人は、父を裏切ったのだ。

何もかも奪い去っていった人だというのに。

恨まなければいけないのに。

それなのに。

葛城に掴まれた右手首が焼けるように熱くて、足を動かしながら有間はぎゅっと目を閉じた。

*

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葛城皇子―中大兄皇子と有間皇子とのお話です。

二人は従兄弟同士の間柄で、有間の父は孝徳天皇。

のちに有間は中大兄皇子によって、謀反の咎で処刑されてしまいます。

その時、わずかに19歳でした。

この二人、なんだか好きなのです。

邪まですみません。

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